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タクシー運転手 体験談

窓からローズが見える

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ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル

「窓からローズが見えた」と言っても、家の窓からガンズ・アンド・ローゼズのアクセル・ローズを目撃したという話ではない。
僕はタクシー運転手をしている。タクシーにはいろいろなお客さんが乗ってくる。
その日僕は、ターミナルのタクシー乗り場である女性を乗せた。タクシー乗り場なので、タクシーも並び、またタクシーに乗ろうとするお客さんも並ぶ。
僕はタクシー乗り場に並ぶ最後列のタクシーの後ろに自分のタクシーをつけ、さて、どんなお客さんが乗ってくるかなと、ぼんやり考えていた。
お客さんの列を見ると、その中にヒラヒラした純白のドレスを着た、長い黒髪の娘さんがいた。今どき、ドラマのお嬢さんキャラもそんな恰好はしていないだろう、昭和なお嬢様スタイルだ。今なら、若い女性の多くは家庭環境に関係なく、たいていは茶髪だし、純白のヒラヒラドレスなんて着ない。

鈴がコロコロと

何となく、その娘さんに興味を覚えた。かくして、順番にお客さんがタクシーに乗っていき、そのお嬢さんらしき人は僕のタクシーに乗ってきた。
「ご乗車ありがとうございます。どちらまでですか」と声をかけると、まるで鈴を転がすような声で「お世話になります。〇〇までお願いします」と答えてくれた。まさしく本物のお嬢様だった。目的地も、誰もが知る高級住宅街だった。それに美人だった。
さて、そんなお嬢様を乗せた僕のタクシーが交差点で右折しようと、直進車を待っていたときのことだ。直進車が途切れたとたん、横から割り込んで右折していった車があった。「危ないなあ」と思ったものの、僕は冷静にハンドルを握っていたので無事にやり過ごした。
しかし、それを後部座席から見ていたお嬢様が「ひどい運転ですわね。あんな運転手は首をはねてしまえばいいですね」とのたもうた。
まさに、きれいなバラにはトゲがあるもんだ。

ため息

それからも、少しマナーの悪い車やバイクを見るたびに、とてもていねいに毒を吐く。そのギャップが面白かったけど、同時に疲れてきた。
ともかく、無事にそのお嬢様を目的地まで運び、予想通りの大邸宅の前で降ろした僕は、何だか深いため息を吐き出した。世の中には本当にいろいろな人がいる。
それから数日後、またその同じターミナル駅に行き、タクシー乗り場のタクシーの列に自分のタクシーをつけようと思った。
見ると、お客さんの列に、あのお嬢様が前と同じ純白のドレス姿で立っていた。
この日は、幸か不幸か、お嬢様は僕のタクシーには乗らず、他のタクシーに乗っていった。
今日はどんな毒を吐くか、興味はあったんだけど。

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