休日は寝るだけじゃなくて趣味のSNSで友達を拡げる
タクシードライバーを仕事にしていると、同僚から、昼夜がひっくり返ったりするシフトもあるのがキツイとよく聞く。それで皆さん、休日は家で寝て過ごす人も多い。僕は、まあ若いせいか、休みの日なんかも寝るだけの1日にはしない。というか眠くならないから、休日の半分近くは趣味のSNSへの書き込み＆情報収集なんかで過ごす。勤め始めたころは、外へ遊びに行ったこともあったけど、それはさすがに仕事にひびくから、今はもっぱらインドアでの趣味ということになった。
SNSはいろんな世代やいろんな職業の人たちとの交流が面白いんだけど、先日、ちょっと風変わりな書き込みがあった。職業は？と訊けば「ミライジン」との答え。おもしろい、つきあってやろうじゃないのと、しばらくやり取りがあった。といっても、ほとんどこちらからの問いに「ミライジン」が答えを返して来るというもの。まあ、自分がタクシードライバーなので、タクシーの未来像から始まって、人の生活がどう変わっているかが中心だったんだけど。意外にリアリティがあったので、ちょっとここにその主要部分を紹介しようと思う。
2033年、買い物にクルマで出かける文化はなくなる
ミライジンがいるのは2033年で、こちら側が2018年だと分かっての通信だという。今から15年後だ。僕も今の仕事を続けている可能性があるから、タクシーはどうなってるか訊いてみた。
その頃には、ガソリン車は存在しないという。クルマはすべて電気で走る。ただし、「マイカー」はなくて、移動手段はすべてリニアモーターによる鉄道路線を中心とした公共交通機関に組み込まれる。その中で毛細血管的な役割を果たすのが今の「タクシー」にあたるもの。人の生活にいちばん近いという意味で「αシステム」と言い、「α-1」から「α-6」まで大きさによって6段階に分かれているそうだ。トラック関係は「β-1」から「β-10」まで、運ぶものによって使い分ける。
αは自動運転かというと、そうではなく、一応人間が操る。とはいえ運転ではなく、操作を監視・監督するために乗っている。ただ実際は、接客などが大半の仕事になる。運転機能の90％ほどは同乗するロボットがやる。また、αは一般家庭向けの宅配便の荷物も扱い、人間も1人から30人まで運ぶことがあり、積む荷や人によって各種ある。
ちなみにその頃には「物流」という言葉は死語。その概念は「アマゾン」と呼ばれている。全国の要所要所に超ド級の統合倉庫を作っていったアマゾンが物流を全部統合。日常会話でも「それ宅配便で」ではなく「アマゾンしといて」と言う。ちょうど「コピーしといて」とか「ファクスしといて」という感覚。
その頃には百貨店もなく、「ディスプレイセンター」というものに置き換わる。一般的にそこでは試着したり、モノを見て確かめて、電子サインをするだけ（体験中心になるのでそれはレジャー化している）。品物は全部あとで自宅に届けられる。専門店もほとんどそんなカタチ。
何でも急げ急げの今の時間感覚とはまるで違う
特におもしろいなと感じたのは、その時代と今では時間に対する感覚・価値観が違うこと。今2018年の世界ではリニア新幹線があったり、宅配便でも当日便があったり、何でも早く早くなのだが、2033年はだれも急がないのだそうだ。「なるべく早く」ではなく、「予定どおり」が大切となる。
早くすること・急ぐことは簡単にできるが、それは重要ではない。2033年では、すべてが時間どおりにプログラム感覚で進むので、余裕が日常的なものとなる。予定が立たないものに待たされることはなく、きっちり予定が分かっている、その時間を有効に使うので、時間短縮のために余分なコストを費やすことがない。
宅配便などは早く受け取ったほうがいいのでは？と言ったら、「ミライジン」に、そんなに急いで受け取ったとしても“昔”（2018年）の人は忙しくて1･2日くらいは荷ほどきしなかったのではないか、と言われた。
考えてみれば、現代人は何をそんなに急いでいるのか？ということがあまりにも多い気もする。自分のタクシー稼業にしても「○○駅まで、大急ぎで頼む」とよく言われる。まあ、急ぐからタクシーという選択肢なんだけど。ミライジンにそう言ったら、そんな旧人類は今はいないと言われた。昔は自分もそんな目によく遭ったもんだけどね、とも。
って、アンタそんな前、つまり2018年からαいやタクシーに乗ってたの？と訊いたら「うん、まあね」。ひょっとして、アンタ＝僕なの？と訊いたら「さあね」。さらに決定打で「それじゃ、今幸せか？」と恐る恐るたずねれば「最高に幸せさ！」と答えて、それ以来交信不能になった。